ふりかえりを設計する技術を会得するまで
現在自分はふりかえりワークショップの破の段階にいると考えています。ただその破の段階までの変遷がありました。

守破離という言葉があります。
守破離(しゅはり)は、日本の茶道や武道などの芸道・芸術における師弟関係のあり方の一つであり、それらの修業における過程を示したもの。日本において芸事の文化が発展、進化してきた創造的な過程のベースとなっている思想で、そのプロセスを「守」「破」「離」の3段階で表している。
現在自分はふりかえりワークショップの破の段階にいると考えています。ただその破の段階までの変遷がありました。
新卒時代、お通夜MTGが嫌になる
新卒時代の時に受託案件をやっていたことがあるのですが、いわゆる"お通夜ミーティング"が日常茶飯事でした。
お通夜ミーティングとは、誰も意見さえ述べないお通夜のようなミーティングのことです。

このお通夜ミーティング状態が続くと、いずれミーティングを主導している人は"孤軍奮闘の悪循環"に陥いってしまい、次第にメンバーに期待しなくなります。

これがまさに新卒の現場に居た時に起こっていた事象でした。その時に丁度fukabori.fmで聞いていた65. 問いかけの作法(前編) w/ YukiAnzai から問いかけの作法という書籍を知り、「ああ、今自分はお通夜ミーティングにいて、これは良い状態ではないのだな」とメタ認知することができました。
もしこの時に問いかけの作法に出会っていなかったら、今もこの"お通夜ミーティング"が"あたりまえ"のものと感じていて、違和感を持てていなかったかもしれません。
この時から心理的安全性を重視し始め、心理的安全性を高めるためのワークやチームビルディング等に興味を持ち始めました。
とことん"守"を徹底していた頃
紆余曲折あって、スクラムマスターをやり始めた時にスプリントレトロスペクティブをかなり手探りで設計していました。
最初の時は本当に何も思いつかない状態で、どこから始めたらいいかもわかっていなかったので、とりあえず書籍の言う通り、お品書き通りで進めていました。
特に参考にしていたのがこの2冊です。
カイゼン・ジャーニーではインセプションデッキの概念を学び、インセプションデッキがあるからこそ、ふりかえりをする価値があることを学びました。
また、ふりかえりガイドブックは本当にお世話になり、この本に書いてある方法を忠実に行なうところから徹底して実施していました。
実際に書籍の中に書いてあったプラクティス例である、非日常感を演出するために、会議室を取って、ホワイトボードにFUN DONE LEARNを書いて付箋をペタペタして、それを通して話し合う。そして話し合う順番はトーキングトークン(この時はぺちぞー(PHPの象)のぬいぐるみ)を各個人が持って話していました。
今思い返しても本当に良い体験だったなと思っています。まさに"非日常"を演出することができ、全員の中に強い記憶が刻まれて"ふりかえり"が特別になった瞬間でした。
その時から、KPTやYWTを中心にふりかえりを8週程度実施していました。
同時にMiro(ホワイトボードツール)を知り、使い始めたのはこの頃でした。2022年の年末頃です。
マンネリ化からくる飽き
KPTやYWTを中心に進めていましたが、いつしかチームがマンネリ化していることに気づきました。ふりかえりの時間に内職をしている人が目立ったり、どこか心ここにあらず、という雰囲気で参加しているメンバーがいたり...。
その時に一番最初にふりかえりをやった時の写真や、一番最初に決めたふりかえりの目的とルールを見返す"ふりかえり"を実施しました。
そのふりかえりを通して、チームは初心を思い出し、ふりかえりに対してより真摯に向き合うようになりました。
そして同時に私の中でも、「同じことをしていてはダメだ、チームの状況に合せてふりかえりの内容も変化させないと」と感じるようになりました。
関係の質を高めたり、向きなおりしたり
ふりかえりをチームの状態に合せて考える必要があると感じるようになってから、手法の特性と効果をより理解するようになりました。
特に ふりかえりカタログ にはかなりお世話になり、ここから「どういうふりかえりにしたら、チームはより強くなれるのか」を考えて手法をピックするようになりました。
具体例として
- チームが後ろ向き(ネガティブになってしまっている)→ポジティブ星人
- チーム目的意識が薄れてしまってきている(共通認識がズレてきてしまっている)→露天風呂
- チームでの内的役割が固着化してしまってきている→あたりまえ探し
- 障害が発生し、障害への対応策に興味が向いている→タイムライン
- チームメンバーがいまいち元気がない→感情グラフ
- 自分達がやってきたことを俯瞰して組織効力感を高めたい→チームストーリー
- メンバーの同士のプライベートの話がほとんど行われなく、感情的信頼が弱い→タイムラインのハピネスレーダー
といった形で、「今チームはどんな状況なのか」を観察し、そこに効果的になるようにふりかえり手法をピックしていました。
他にも興味がたくさん沸いてきてしまい、Management3.0のプラクティスであるマネージング・フォー・ハピネスという書籍に書かれている手法もいくつかピックして試してやっていました。
- チームの関係の質が高くない→KUDOカード
- 新しくジョインしたメンバーがいる→ムービングモチベーターズ
- 自分自身が心理的距離が遠いと感じている人がいる→パーソナルマップ
また、向きなおり(目的への共通認識を再形成する)の一貫としてインセプションデッキの「我々はなぜここにいるのか?」を再度メンバー全員でやって目的の共通認識を形成する、といった取り組みも行っていました。
ワークをカスタマイズすることで、より親近感を作る
自我が芽生えてきて、ワーク自体をカスタマイズしてみようかな?という気持ちになってきました。
その時に始めてカスタマイズしたワークがこちらの記事にあります。

これはKudoカードという手法で、感謝や称賛の言葉をカードにし、それを伝えながら渡すことで関係の質を高めるというワークになっています。
チームが二郎が好きなメンバーが大半で(この頃自分は二郎を食べたことがありませんでした)構成されており、そのメンバーが親近感を覚えやすいようにKUDOカードのカードをラーメンのトッピングに見立ててカードを書く、というワークを作りました。
このメタファーのおかげで、「今週はヤサイマシマシだね」だったり「お、今週はニンニク多めか」というコミュニケーションをしながら、一週間を分ちあっていました。
これが始めてのワークカスタマイズであり、ワークカスタマイズの効果を知った瞬間でした。カスタマイズしたワークは"マンネリ感"が生れにくく、長持ちしやすいのもメリットだと感じます。
ふりかえりは"自由"である
また同時期にスクラム系の動画を見るのにハマっていて、丁度見たふりかえりの動画で自分が固定観念を持っていたことをメタ認知しました。
こちらの動画です。ふりかえりは「こうしなきゃ」という固定観念を持っていた時にこの動画を見て、「あ、ふりかえりはもっと自由で良いのか」という衝撃を受けました。
実際に自分の今のふりかえり設計スタイルはかなり自由です。
ただその自由なスタイルに辿り着くまでに、色々試した結果、ある程度効果的にするためのノウハウを持っているので、それをベースに自由に組み合せたり、カスタマイズをしてふりかえりを作っているだけです。
ふりかえりの"目的"が分からなくなる
ある程度ふりかえりの設計をしていく中で「なんのために」ふりかえりをするのかがわからなくなりました。
プロセスを改善するため?チームの関係の質を高めるため?相互理解のため?立ち止まるため?
自分がふりかえりの会を企画するのはどうしてなのか?なんのためなのか?
答えが見つからない中で出会ったのが「対話」です。
「対話」というキーワードから色々な書籍を読み漁っていくうちに「社会構成主義」に辿り着くことができました。


社会構成主義に触れるまではふりかえり会での目的として「プロセスを改善をする場でありたい」と考えてました。ふりかえることによって、普段気づきにくいプロセス自体に対して疑問点を持つことができるので、シングルループではないダブルループ学習をすることができると考えていました。
そこで社会構成主義に触れ、合理的価値観や個人主義への無意識下のとらわれを認知することができました。
何か集って時間を使うのであれば、目に見える何かを生み出す必要がある、そう考えていました。
しかし、社会構成主義においては「対話」によって現実が生まれるという考え方をしていて、「対話」することでその場にいる参加者の中で現状に対して意味付けを行ってくることによって現実が生まれるのだとパラダイムシフトをしました。
この時から、"形式的に何かを進める"よりも"その場にいる人たちの中で現実を生む"ために何ができるか、どう支援できるかを中心にワークショップを設計・ファシリテーションするようになりました。
同時期に、「ふりかえり」と「リフレクション」と「チームリフレクション」と「スプリントレトロスペクティブ」の言葉の違いを強く意識するようになり、明確に使いわけるようになりました。
リフレクションに関してはこちらの動画がわかりやすくまとまっていて、参考になります。

ねらいのメタファーから考える
ふりかえり会を通して、参加者が終了後にどういう状態になっていてほしいのかを想像し、その状態を実現するにはどう設計すればより効果的なのかを考えるようになりました。
そこでより創造性が解放されやすい「問い」はないか考えるようになり、メタファーを中心にワークを設計するようになりました。
メタファーを使って、表面上は全く異なるものから本質を見い出し、より問いの本質部分に集中できるようにするのがねらいです。
メタファーはうんうん唸りながら考えることもありますが、大体はその時の思い付きです。クリエイティビリティで生きています。
そして、対話型組織開発も体系的にまとまっていて非常に参考になりました。
より伝わりやすく、親切に
この時くらいから、情報設計面での伝わりやすさとワークをする時に参加者が困らないようにするため設計を考えるようになりました。
その1ステップ目として、グラフィックレコーディング・グラフィックファシリテーションの技術を学びました。

グラフィックレコーディングはイラストで表現する手法ではあるのですが、これをFigjamのようなホワイトボードツールでも有効活用できると思い、グラレコのエッセンスを学びました。
あえて余白を残す感じで、あえてクオリティを高めすぎないようにして、思考の余白が生まれるようにするテクニックもここで学びました。
また、「現実の椅子を配置する」ような現実をグラフィックの世界に落し込んで、ワークを設計するということもグラレコを通して学ぶことができました。
これから
プロセス改善をより促進するためのワークショップ設計のカタを最近は考えています。

というのもその一環です。プロセス改善をするある程度のカタを生みだせれば、色々な場所で簡単に使ってもらえるので、地道にもうちょっとインプットをしながら考えていきたいと思っています。
積読 または購入予定の本
途中までは読みましたが、ちゃんと読みます。
