「ソフトウェアプロセス改善手法SaPID入門」を読んで、レトロスペクティブのエッセンスを知る
SaPIDを活用して、スプリントレトロスペクティブでの改善効果向上を目指す。

今日は「ソフトウェアプロセス改善手法SaPID入門」という書籍を半年くらい積読しておきながら、やっと手に取ったので軽く読んだ感想を書きます。
ソフトウェアプロセス改善手法SaPID入門とは
こちらの書籍です。
SaPIDとは
SaPIDとは、職場での問題や課題を当事者自らが考え改善していくための手法(自律的に改善していく人材、組織に変える手法)です。その特徴は、現場の方々のやらされ感をなくし改善活動を挫折させないための工夫が随所に盛り込まれていること、問題や課題の原因と結果の因果関係を明らかにして問題解決に取り組むというシステムズアプローチをとることです。
あれ?これかなりScrumやレトロスペクティブで役立つのでは!と思い手に取りました。
知ったきっかけ
失礼ながら、かなりニッチな本だと思っています。実は私もこちらのFindyの記事を見ていなかったら存在すら知らずに、読もうなど思うこともなかったでしょう。
エッセンスポイント
改善していく上での大原則
第一章で「モデルベース改善」や「個別改善」のメリットデメリットを列挙しつつ、成功を阻害する共通する問題として「関係者の仕事の価値に対する認識」があると主張しています。
この問題を持っている改善手法は「やらされている感」がある改善手法になります。これでは自律的なチームや組織は作れません。
そのため、「価値を認識できていない仕事を自ら進んで改善しようとする人はいない」ということを肝に命じて取り組むことが大切で配慮しつつ取り組む必要があると解説されています。
他者を変えず、自分を変える
また、もう1つ共通する問題として「他者依存・他者責任追求」があると主張しています。
- 誰かがやってくれるのを待つ
- 自分の責任にしないように他者の責任を追求する
という問題です。
ただ「他者は変えられない。変えられるのは自分だけ」という原則を持ち「まずは自分自身が変化の起点になる」ことで自らの境遇を変える秘訣の1つだと主張しています。
THE システム思考アプローチという感じがして、「まずはここからだな」と新めて認識しました。
SaPIDの特長はふりかえりのエッセンス
ざっくりと書籍にあるSaPIDの特長をまとめると以下です。
- 「小さく、早く改善を回してふりかえる」ことに軸足を置くので、改善活動が定着しやすい
- プロセスモデルを活用しないため、敷居が低く当事者自らが改善活動に参画しやすい(問題 VS われわれの図になる)
- 普段の実務を包含した全体を対象に現状を把握できる
- 現状に対して適切で費用対効果の高い改善策を導出できる
- 関係者間の相互理解を促進し、理解にもとづく合意形成をしやすい
- 改善へのモチベーションを得られやすく維持しやすい
...これはめちゃくちゃレトロスペクティブの場で得たい効果なのでは...?と感じます。
プロセスを改善するふりかえりをも改善する
ふりかえりのふりかえりにおいて、SaPIDではどんどんプロセスを改善していきます。
書籍においても、ふりかえりをしていない状況から、ふりかえりプロセスを仕組み化し問題構造分析・定量評価を用いてより多角的に効果的な改善アクションを考えるようになるまでの具体例が書かれています。
この具体例を見ることで、実際にSaPIDを使って改善していく流れが理解できると思います。
SaPIDファシリテーターから学ぶ
また、この書籍にはSaPIDファシリテーターの役割とあり方が紹介されています。
改善推進役の役割は「心理療法士」のそれに類似していると感じます。
上記のように表現されています。最近自分自身も家族療法等を学び、ふりかえりの場として得たいものは臨床心理の領域と被っていることを感じていたので共感の波でした。
また、以下が心構えになります。
- 手法の内容と価値を把握・実感しておく
- 一緒に成長する
- 対等な立場で、同じ目線でアプローチする
- 過剰に嫌われたくないと思わない
- 理解することによって理解してもらう
- 誠実に対応する
- 待つ勇気をもつ
- 失敗を許容しそこから学ぶことを促進する
- 「~させよう」的な下心をもって対応しない
- 改善推進役が主役にならない
- 事実の伝達が必ずしも良いとは限らない
- 相手の特性や状況を把握してアプローチする
- まずは相手の話をよく聴く(傾聴)
- 必要な情報を取得する
- 相手のことをありのまま理解する
- 質問の仕方には注意する(なぜ?なぜ?と繰り返すのは「~すべきだったのに、なぜやらなかったのか?」と問い詰めになる)
- 何を求めているのかを把握する
- 良いこと・当たり前の敷居を下げる
- 良いことを見つける
- 良いことはその場で知らせる
- 良くないことも本人に気づいてもらう
- 無用な疑問や不安があればタイムリーに解消する
- 見通しを示す
- 自ら動く意思がなければ支援しない
- うまくいったら本人の手柄
- 手応えを得る、そして共有する
これらの心構えはスクラムマスターとしてファシリテーションをしていく上でもかなり重要な心構えだと感じます。そして、これらの心構えを忘れずにレトロスペクティブの設計をしていくつもりです。
さらに活用できそうなところ
スプリントレトロスペクティブでSaPID手法自体すべてを取り入れるのはかなり重い(1週間スプリントだと厳しい)ので、1ヵ月や3ヵ月単位に取り入れると良さそうだと感じました。
加えて、「象、腐った魚、嘔吐」と言った"問題の共通認識を合わせる"フレームワークを補完するものであると感じました。
「象、腐った魚、嘔吐」を行なっても、それ以降の本質的な問題解決はなかなか動きづらいことが多く、その課題を解決する手法としてSaPIDはかなりワークしそうな感じがします。
と思っていたら近いことを紹介されていました。
引き続きインプットしつつ、SaPIDのエッセンスを取り入れたスプリントレトロスペクティブの設計を考えていきたいと思います。スプリントレトロスペクティブの設計についてはまた別の記事で。
最後に
スクラムマスターとしてスプリントレトロスペクティブの設計に携わる機会がある人は一読しても損はない(むしろ得しかない)本だと思います。
ぜひ手に取ってみてください。
余談
SaPIDとSaPIXって間違えやすい(何度か打ち間違えた)
